東京地方裁判所 平成12年(ワ)1550号・平12年(ワ)7979号 判決
主文
一 原告は、被告ら各自に対し、金二〇万円及びこれに対する平成一二年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の本訴請求及び被告らのその余の反訴請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを五分し、その二を被告らの、その余を原告の各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴
1 被告Bは、原告に対し、金九四万円及びこれに対する平成一一年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告Cは、原告に対し、金九四万円及びこれに対する平成一一年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告X家具センター株式会社は、原告に対し、金九四万円及びこれに対する平成一一年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴
1 原告は、被告Cに対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成一二年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告は、被告X家具センター株式会社に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成一二年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 原告は、被告Bに対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成一二年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 前提事実(証拠援用部分を除き、争いがない。)
1 被告X家具センター株式会社(以下「被告会社」という。)は、家具の製造販売等を業務とする会社であり、本部のほか、町田店、所沢店、青梅店、青葉台店、久留米店、相模原店、つくし野店、久米川店、五月台店などにおいて業務を行っている。
2 被告C(以下「被告C」という。)は、被告会社の代表取締役である。
3 被告B(以下「被告B」という。)は、被告会社の次長であり、被告会社Y町田店(以下「町田店」という。)の店長である。
4 原告は、平成一一年四月三日、被告会社において行われた被告C及び被告Bによる採用面接を受け、同月四日、被告会社のパートタイマーとして採用され、同月七日以降、町田店において、週四日ないし五日の勤務を継続してきた(以下、原告と被告会社との間の雇用契約を「本件雇用契約」という。)。
5 平成一一年五月二二日、町田店において職員の歓送迎会が開かれた。
右歓送迎会(以下「本件歓送迎会」という。)には、被告C(男性)、被告B(男性)及び原告(女性)のほか、町田店の副店長D(男性)、当時町田店に勤務していた被告会社従業員E(女性、以下「E」という。)及びF(女性)など、合計一一名(男性六名、女性五名)が参加した。
被告C、原告、E及びFらは、その後カラオケボックスに場所を移して行われた二次会にも参加した。そして、被告Cは、二次会の終了後原告を自分の車で原告の自宅付近まで送った。(甲四、乙二ないし四)
6 原告は、平成一一年六月六日、被告会社久米川店の販売担当を命ずる旨の辞令の交付を受けた(以下「本件異動命令」という。)。
2 争点
(一) 本訴請求原因
(1) 被告Bの不法行為
<1> 平成一一年五月二二日、町田店内において行われた本件歓送迎会の一次会が終了した後、原告が、二次会に行くため、被告Cの運転する自動車の傍らでFとEが来るのを待っていたとき、被告Bは、原告の後ろから突然来て、町田店のすぐ後ろにあるホテルを指さしながら、原告に対し、「そこにホテルがあるじゃないか。」と述べた。
これは、被告Bが、被告Cが原告に好意を寄せていることを嫌忌し、それについては全く非がなくかつ夫と子供とともに幸せな家庭を築いて実直に暮らしている原告に対し、悪意を持って、原告が被告Cと簡単にホテルに入るような人間であることをあからさまに述べて、原告を侮辱した行為にほかならない。(以下、右不法行為を「被告Bの不法行為<1>」という。)
<2> 被告Bは、平成一一年五月二九日、町田店の閉店後、原告に対し、「町田店にあなたは合わない。」「何でも一番になりたい人でしょう。」「副店長を教育するのにあなたがいるとうまくできない。」などと、原告が全く身に覚えのない嫌みや中傷の数々を述べ、その際、話の折々に、原告に対し、「二二日の歓送迎会の帰りに社長に送ってもらったなんて本当にびっくりしたよ。」と述べた。(以下、右不法行為を「被告Bの不法行為<2>」という。)
<3> 本件異動命令は後記のとおり違法なものである。
それにもかかわらず、被告Bは、平成一一年五月三一日、原告を被告会社から排除することを被告Cとともに企図し、原告に対し、被告会社久米川店に異動するよう言い渡したり、同年六月六日、右異動を明記した被告会社名義の辞令書を原告に交付させた。(以下、右不法行為を「被告Bの不法行為<3>」という。)
(2) 被告Cの不法行為
<1> 被告Cは、平成一一年五月二三日午前三時ころ、本件歓送迎会の二次会の帰りに原告を自動車で送った際、左側助手席からドアを開けて自動車を降りようとした原告に対し、いきなり、原告の両肩付近を掴んで原告の顔を自分の顔の前に向けさせ、原告に口づけをした。(以下、右不法行為を「被告Cの不法行為<1>」という。)
<2> 被告Cは、原告を被告会社から排除することを被告Bとともに企図し、平成一一年五月二九日、町田店の閉店後、被告Bをして原告に対し、「町田店にあなたは合わない。」「何でも一番になりたい人でしょう。」「副店長を教育するのにあなたがいるとうまくできない。」などと、原告が全く身に覚えのない嫌みや中傷の数々を述べさせ、その際、話の折々に、原告に対し、「二二日の歓送迎会の帰りに社長に送ってもらったなんて本当にびっくりしたよ。」と述べさせた。(以下、右不法行為を「被告Cの不法行為<2>」という。)
<3> 本件異動命令は後記のとおり違法なものである。
それにもかかわらず、被告Cは、平成一一年五月三一日、原告を被告会社から排除することを被告Bとともに企図し、原告に対し、被告会社久米川店に異動するよう言い渡させたり、同年六月六日、右異動を明記した被告会社名義の辞令書を原告に交付させた。(以下、右不法行為を「被告Cの不法行為<3>」という。)
(3) 被告会社の債務不履行又は不法行為
<1> 債務不履行
被告会社は、原告を町田店におけるパートタイマーに限定して雇用したにもかかわらず、原告を久米川店に配転した。
したがって、本件異動命令は、本件雇用契約に違反する違法な命令である。
<2> 不法行為
(ア) 本件異動命令は左記の二点において違法である。
(a) 本件異動命令は、原告の勤務先を町田店に限定した本件雇用契約に違反する。
(b) 原告には何ら非がないにもかかわらず、被告Bは、被告Cが原告に好意を持つことを嫌忌し、また、被告Cは、原告に好意を持って被告Cの不法行為<1>を行ったにもかかわらず、被告Bから原告を自動車で送ったことを諌められるや手のひらを返したように、被告Bと一緒になって原告を被告会社から一方的に排除しようと企図し、原告に嫌がらせを行ったあげくに久米川店へ配転した。
(イ) 被告Bの不法行為<2><3>は、被告会社の従業員である被告Bが、被告会社の業務の執行として行ったものであるから、被告会社は民法七一五条に基づき、被告Bの不法行為<2><3>によって原告が被った損害について責任を負う。
(ウ) 被告Cの不法行為<2><3>は、被告会社の代表者がその職務を行うについて行ったものであるから、被告会社は民法四四条に基づき、被告Cの不法行為<2><3>によって原告が被った損害について責任を負う。
(4) 原告の損害
<1> 原告は、被告Bの不法行為<1>ないし<3>、被告Cの不法行為<1>ないし<3>及び被告会社の債務不履行又は不法行為によって、被告会社にいられない状態にまで追いつめられ、多大な精神的苦痛を被った。その苦痛を慰藉するための金員は八六万円を下らない。
<2> 原告は、本訴提起を原告代理人に委任し、その費用として金八万円を原告代理人に対して支払った。
(5) よって、原告は、被告ら各自に対し、金九四万円及びこれに対する本件異動命令が原告に交付された平成一一年六月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(二) 反訴請求原因
(1) 原告の主張する被告Bの不法行為<1>ないし<3>、被告Cの不法行為<1>ないし<3>及び被告会社の債務不履行又は不法行為は、以下のとおり、いずれも虚偽の事実であって全く理由のないものである。
(ア) 本件歓送迎会の一次会は、午後一一時ころ終了し、原告の誘いにより原告、被告C、D、E及びFほか一名の合計六名が近くのカラオケボックスに行くこととなった。
被告Bが、F、Eとともに町田店の裏口から出て自分の車に乗って帰ろうとしたところ、原告は被告Cの車の助手席に既に乗り込んでいた。
被告Bがそこで原告に対し、「そこにホテルがあるじゃないか。」と述べた事実はない。被告Bが被告にそのようなことを言う理由は全くないし、被告Cが原告に好意を寄せていたという事実も存在しない。
(イ) 被告Cが原告に口づけをしたという事実は全くの虚偽である。
二次会に行った六名のうち、原告を除く五名は自動車通勤であったため、それぞれ自分の自動車で帰宅した。
被告Cは、EかFが原告を送るものと考えていたが、被告Cの運転する車がカラオケボックスから町田店に到着しても原告が助手席から降りようとしなかったことから、帰りの交通手段のない原告を遠回りになるのを覚悟で善意で送ることにした。
原告宅に近づいたとき、原告が自宅を指さして「あそこが家です。停めて下さい。」と被告Cに言ったので、被告Cは車を停めた。
ところが、被告Cが車を停めても原告が降車しようとしなかったので、被告Cは、運転席から助手席の原告に対して「降りないの。ついたよ、どうしたの。」と話しかけたが、原告は降車しなかった。
被告Cは、原告が酔っぱらってしまったため降りないのだと思い、運転席を降りて助手席のドアを開けたところ、原告は降車した。
被告Cは、原告に対し、「お疲れさま。おやすみ。」と言って運転席に戻ろうとしたところ、原告は被告Cに対し、「個人的に会ってくれますか。」と言ってきた。被告Cは、苦笑しながら運転席に戻り、そのまま帰宅した。
被告Cが原告に対して好意を寄せていた事実は全くなく、むしろ好意を寄せていたと推測できるのは原告の方である。
(ウ) 被告Bは、平成一一年五月二九日、原告が被告会社に勤務後二か月を経過する時期となったので、国内家具を中心とする久米川店への異動を命じたが、この人事異動は、原告の主張する被告Bの不法行為<1>及び被告Cの不法行為<1>とは全く関係がない。
そもそも、同日の時点において、被告Bも被告Cも原告の主張する右各不法行為<1>について全く身に覚えがなく、同月二三日から二九日までの間に原告が四日勤務しているのに、その間被告Bも被告Cも右各不法行為<1>について全く何の抗議も受けていない。
原告を久米川店に異動させたのは、原告を町田店に限定したパートタイマーとして採用したものではなく、二か月の試用期間を経て当然配置転換もあり得ることを告げて採用していること、国内家具販売を中心とする久米川店と輸入家具販売専門のY各店では客層に多少相異があり、原告の販売能力の高さ(長所)及びやや自己顕示欲の強い傾向(どちらかと言えば短所であるが、販売力につながる面もある。)等の接客態度から見て、一般客が多い東洋家具久米川店が適切であると判断したからである。
原告宅から久米川店まで、車で片道数時間もかかることはなく、約一時間程度で通勤可能であり、本件異動命令は、被告会社の通常の人事異動である。
(エ) 平成一一年五月二九日になされた原告に対する本件異動命令告知の際のやり取りは、以下のとおりである。
被告Bは、町田店の開店時間中に同店内において、原告に対し、「久米川店に異動して下さい。」と告知した。
これに対して原告は、被告Bに対し、「何でですか。理由が分かりません。」と不満を示したので、被告Bは、「町田店にいるより久米川店にいる方が能力が発揮できる。」と述べたが、原告は、海外経験があり、Yが合うなどと述べ、異動したくないと言い張った。
そのようなやり取りの最中、平成一一年五月二三日の夜中に被告Cが原告を送っていったことに触れ、酒気を帯びていた被告Cに遠回りをさせて自宅まで送らせたことを注意した。
被告Bは、この件について、同月二三日、出社したD副店長に対し、D又は他の者に原告を送らせないでDが直接帰宅したことは無責任であると注意していたが、送らせた当人の原告にも二度としないようにとの趣旨で注意をしただけである。
したがって、被告C及び被告Bが、原告を排除することを企てて本件異動命令をさせた事実は全くない。
(2) 原告は虚偽の事実を公然と摘示して本訴を提起し、被告らの名誉を著しく毀損した。これは、被告らそれぞれに対する不法行為に該当する。
(3) 右不法行為による慰藉料は、被告ら各自について、いずれも金一〇〇万円を下らない。
(4) よって、被告らはそれぞれ、民法七〇九条、七一〇条に基づき、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成一二年四月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第三当裁判所の判断
一 本訴請求原因について
1 被告Bの不法行為<1>及び被告Cの不法行為<1>について
(一) 被告Bの不法行為<1>の事実は認めがたい。その理由は以下のとおりである。
(1) 原告の作成した陳述書(甲四)には、平成一一年五月二二日、町田店内において行われた本件歓送迎会の一次会が終了した後、原告が、二次会に行くため、被告Cの自動車の傍らでFと須原が来るのを待っていたとき、被告Bが、原告の後ろに近づき、町田店に隣接するラブホテルの建物を指さしながら、原告に対し、「そこにホテルがあるじゃないか。」と述べたとの記載部分があり、原告本人もこれに沿う供述をする。
しかし、以下に述べる事情に照らすと、陳述書の右記載部分及び原告本人の右供述は、いずれもこれを採用することができず、他に被告Bの不法行為<1>の事実を認めるに足りる証拠はない。
(2) 被告B自身、原告に対して「そこにホテルがあるじゃないか。」と述べた事実を明確に否定しているほか、二次会に参加するために町田店の駐車場に集った被告C及びEも、被告Bの右のような発言を聞いていないと供述している。
(3) 被告C及び被告Bの各本人尋問及び証人Eの証言を総合すると、一次会終了後、町田店の東側にある裏口から最初に駐車場に出てきたのは被告Cであり、同人は、町田店の南側に建物に背を向ける方向で停車させていた自分の車を左に約九〇度回転させて建物と平行に停め直し、一旦車の外に出て、車から少し離れて二次会に向かう他の従業員が町田店の裏口から出て来るのを待っていたこと、原告、被告B及びEらはほぼ同時に町田店の裏口から出て来たが、原告は、駐車場に停め直された被告Cの車に近づくや、被告Cの了解を取ることもなくその車の助手席(前席左側)に乗り込んだこと、EはFとともに被告Cの車に近づいたが、被告Cの車に気がついたときには既に原告は被告Cの車の助手席に座っていたこと、そのとき、被告Cと被告Bは被告Cの車の前部周辺におり、被告Bもカラオケに行くかどうかを話し合い、被告Bの妻に携帯電話をかけたりしていたこと、その後、EとFは、被告Cに促されて被告Cの車の後部座席に乗車したことが認められる。
右のような時間経過及び被告Bらの位置関係からすれば、被告Bが車の前で立っている原告に対し「そこにホテルがあるじゃないか。」と話しかける機会があったとは考えにくいし、被告Bの右のような発言がなされたとすれば、これを聞いた人間が誰もいないのは不自然である。
(4) 原告本人は、被告Cの車の助手席に乗り込む前、町田店の東側にある従業員駐車場付近にいたEとFにこちらに来るよう声をかけ、その際被告Bから前記発言を受けたと供述する。
しかし、EとFが実際に町田店の東側にある従業員駐車場付近にいたとすれば、原告がいたという位置から右両名の姿を確認することはできないことが認められる上(甲一七、証人E)、当日Eが自分の車を停めていたのは町田店東側の従業員駐車場ではなく、町田店の南東方向に当たる位置であった(証人E)から、原告供述のような位置にEとFが立っていたというのは不合理であり、原告の右供述は信用できない。
(二) 被告Cの不法行為<1>の事実は認めがたい。その理由は以下のとおりである。
(1) 原告の作成した陳述書(甲四)には、平成一一年五月二三日午前二時三〇分ないし三時ころ、被告Cは、本件歓送迎会の二次会の帰りに原告を自動車で送った際、左側助手席からドアを開けて自動車を降りようとした原告に対し、いきなり、原告の両肩付近を掴んで原告の顔を自分の顔の前に向けさせ、原告に口づけをしたとの記載部分があり、原告本人もこれに沿う供述をする。
しかし、以下に述べる事情に照らすと、陳述書の右記載部分及び原告本人の右供述は、いずれもこれを採用することができず、他に被告Cの不法行為<1>の事実を認めるに足りる証拠はない。
(2) 被告C自身、原告に対して口づけをした事実を明確に否定している。
(3) 後記証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告が被告Cに対して好意を寄せていたことを窺わせる以下のような事実が認められる。
<1> 原告は、本件歓送迎会の一次会において、他の参加者から見ても驚くほど、被告Cに対して親しげな、馴れ馴れしい態度をとっていたことが認められる。原告は、新入社員であるにもかかわらず、一次会の途中で、上司でありかつ被告会社のトップである被告Cを「C君」と呼んでEを驚かせ(乙四、証人E)、その馴れ馴れしい態度を、被告Bから本件歓送迎会の最中に注意されている(証人E、被告B本人、なお、本件歓送迎会の最中に被告Bから注意を受けたことは、原告自身も認めるところである。)。
<2> 二次会に向かう際には、被告Cの了解を取ることなくその車の助手席に真っ先に乗り込んだこと(この事実についても原告本人は認めている。)は前記のとおりであり、二次会からの帰りも被告Cの車の助手席に乗り、被告Cの車が町田店に着いたときも、一人車から降りようとしなかった(証人E、被告C本人、その事実も原告は認めている。原告本人は、降りなかった理由を寝ていたからと弁解するが、右弁解は証人Eの証言に照らし採用できない。)。
<3> 原告は、原告が主張する被告Cの不法行為<1>がなされた後となる平成一一年五月二五日から二七日までの休日の間に被告Cの携帯電話に複数回にわたって電話をかけて「お時間は空いていますか。」と尋ねている(この事実は原告自身認めている。甲四、原告本人)。しかし、被告Cの不法行為<1>によって大変なショックを受けかつ悔しい思いをしたという原告の供述(甲四)に照らすと、その直後に被告C自身へ自ら右のような電話をかけるという原告の行為は全く理解しがたいといわざるを得ない。
そして、右のような原告の被告Cに対する好意を窺わせる一連の行動は、その事実を否定しようとする原告本人の供述全体の信用性を著しく低下させるものといわなければならない。
(4) 被告Cの不法行為<1>の事実は、原告と被告Cしか乗っていない車の中の出来事であり、目撃者もなく、結局は原告本人の供述と被告C本人の供述のいずれが信用できるかによってその事実の有無を決せざるを得ない。
そして、車を原告の自宅の近くに停めた後も原告はしばらく車から降りようとしなかったため、被告Cが車から降りて外側から助手席ドアを開けて原告を降ろしたとする被告Cの供述の方が、(3) に認定した原告の被告Cに対する好意を窺わせる一連の行動に符合し、信用できるというべきである。
(5) 仮に、被告Cが原告に口づけをした事実があったとしても、(3) に認定した原告の被告Cに対する好意を窺わせる一連の行動に照らすと、これには原告の黙示の同意が推定されるか、少なくとも原告自身の重大な過失が認定される事案であって、不法行為の成立は困難といわなければならない。
2 被告Bの不法行為<2>及び被告Cの不法行為<2>について
(一) 被告Bの不法行為<2>の事実について、不法行為の成立は認めがたい。その理由は以下のとおりである。
(1) 原告の作成した陳述書(甲四)には、平成一一年五月二九日、被告Bは、原告に対し、「町田店にあなたは合わない。」「何でも一番になりたい人でしょう。」「副店長を教育するのにあなたがいるとうまくできない。」などと、原告が全く身に覚えのない嫌みや中傷の数々を述べ、その際、話の折々に、原告に対し、「二二日の歓送迎会の帰りに社長に送ってもらったなんて本当にびっくりしたよ。」と述べたとの記載部分があり、原告本人もこれに沿う供述をする。
被告B自身、町田店で原告に対し、久米川店への異動を告げたことを認めており、その際、原告から不満を露わにされ、異動の理由を述べざるを得なかったことが窺われる(乙三、被告B本人)から、被告Bのその言葉の中に原告の主張する言葉が含まれていた可能性は高いといえる。
(2) しかし、被告Bが述べた「町田店にあなたは合わない。」「何でも一番になりたい人でしょう。」「副店長を教育するのにあなたがいるとうまくできない。」「二二日の歓送迎会の帰りに社長に送ってもらったなんて本当にびっくりしたよ。」という言葉は、それが直ちに原告に対する不法行為に該当するとはいえない。
原告は、本件歓送迎会の一次会において、被告Cに対して親しげな、馴れ馴れしい態度をとっていたことは前記のとおりであり、そのような態度について、被告Bが苦々しく思っていたことは、本件歓送迎会の最中に原告に注意をしていることからも推認することができる。そして、被告Bが、町田店の店長として、新入社員でありながら被告会社のトップに馴れ馴れしい態度をとることを黙認することは、他の新入社員に対する教育上好ましくないと判断することは合理的であると言える。
また、被告Bは町田店のほか、相模原店及び青葉台店の店長を兼務し、町田店に常時いることは困難であることから、町田店の従業員に対する日常的な教育・指導の大半は副店長であるDに委ねざるを得ないが、Dは原告よりも年齢が約一〇歳年下であり、自己顕示欲が強く、行動的で活発な原告に対する指導は荷が重いと判断することも無理はない(乙三、五、被告B本人)。
したがって、町田店のトップとして、町田店の従業員を円滑かつ効率的組織としてまとめてゆく責任を負う被告Bが、前記のような発言をしたとしても、その発言はいずれも原告の日頃の行動を観察した結果に基づく指導・助言として合理的な根拠があるといえるのであって、原告に対する根拠のない嫌みや中傷と評価することはできないというべきである。
(二) 被告Bの不法行為<2>の事実について不法行為が成立しない以上、被告Bにこれを述べさせたことを内容とする被告Cの不法行為<2>について、不法行為が成立する余地はない。
3 被告Bの不法行為<3>及び被告Cの不法行為<3>について
(一) 被告Bの不法行為<3>の事実について、不法行為の成立は認めがたい。その理由は以下のとおりである。
(1) 原告は、本件異動命令は、原告の勤務先を町田店に限定した本件雇用契約に違反すること、原告には何ら非がないにもかかわらず、被告Bにおいて被告Cが原告に好意を持つことを嫌忌し、また、被告Cにおいて、被告Cの不法行為<1>を行ったにもかかわらず、被告Bから諌められるや手のひらを返し、被告Cと被告Bとが共謀して原告を被告会社から一方的に排除せんとする不当な目的でなされたものであることの二点において違法であると主張する。
(2) 原告本人は、被告会社は原告との採用面接の際、勤務地は町田店がふさわしいと言われており、配置転換の事実は全く聞かされたことはないと供述する(甲四、一七)。
しかし、原告の右供述は採用できない。なぜなら、原告の採用面接にあたった被告C本人は、採用面接時、通勤可能なところで異動があり得ること、町田店と限らなくても勤務できるかを原告に確認した旨供述しており、被告Cのこの供述は、平成一一年五月一七日の社内研修時の原告の感想文(甲一〇の二)に「もう少しMGで楽しませて下さい。」と記載され、当時既に原告自身が勤務地変更の可能性を認識していた事実が推認されることに照らし、十分信用できるからである。
また、原告は、勤務地が町田店に限定されていた理由として募集広告(甲五の一ないし三)を上げているが、採用面接時に転勤可能性が了解されている以上、募集広告の記載よりも採用面接時の合意内容が優先されることは当然であるから、右広告の記載内容は町田店限定の根拠とはなり得ない。
他に、本件雇用契約において原告の勤務先が町田店に限定された事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) 本件異動命令が、被告Cと被告Bとが共謀して、原告を被告会社から一方的に排除せんとする不当な目的でなされたものであることは認めがたい。その理由は以下のとおりである。
<1> 被告Bの不法行為<1><2>及び被告Cの不法行為<1><2>の事実がいずれも認めがたいことは前記のとおりである。したがって、右各不法行為の事実を動機として原告を被告会社から一方的に排除しようとしたとする原告の主張は成り立たない。
<2> 被告Cは、原告に久米川店への異動を命じた理由として、国内家具販売を中心とする久米川店と輸入家具販売専門のY各店では客層や店の雰囲気に多少相異があり、原告の自己顕示欲の強い傾向や馴れ馴れしい、無駄話が多い等の接客態度に照らし、久米川店の方が向いていると判断されたこと、原告の右のような接客態度が町田店の他の若い店員の態度に悪影響を及ぼすようになったこと、久米川店の店長は、被告Cとともに二〇年間家具販売に携わってきたべテランであり、原告に対する礼儀等の教育の面でも同店長に委ねるのが妥当と判断されたことを上げる(乙二、被告C本人)が、右配転理由は、原告の町田店における前記行動に照らして合理的であると判断できる。
<3> 原告は、採用面接時、自宅から車で二〇分前後の通勤時間で通える店舗への勤務を希望していたことが認められる(甲四、乙一の一及び二、原告本人)。
久米川店は、原告の右希望からはやや遠方の店舗であるが、当時の原告宅から久米川店まで、車で約一時間程度で通勤可能であり、通勤が不可能な店舗ではないと認められる(甲一八、被告C本人)。
<4> 被告会社としては、原告の販売能力の高さを高く評価しており、この点に照らしても、原告を被告会社から排除することを意図して本件異動命令を発したとは考えられない。
<5> 被告C、被告B及び被告会社が、原告を被告会社から排除することを意図して本件異動命令を発したとする原告本人の供述及び陳述書の記載は、右事情に照らして採用することができない。
(二) 被告Bの不法行為<3>の事実について不法行為が成立しない以上、被告Bに本件異動命令を告知させたことを内容とする被告Cの不法行為<3>について、不法行為が成立する余地はない。
4 被告会社の債務不履行又は不法行為について
本件異動命令が、本件雇用契約の内容に違反した事実がないこと、不当な目的でなされたものと言えないことは前記のとおりであるから、被告会社の債務不履行及び不法行為はいずれも成立する余地はない。
5 以上のとおり、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
二 反訴請求原因について
1 前記一において認定した事実によれば、原告は、被告らに対する不法行為として主張する事実がいずれも存在しないことを知りながら公然と事実を摘示して本訴を提起した(被告Bの不法行為<1>の事実及び被告Cの不法行為<1>の事実について)、又はそれが不法行為に該当しないことを通常人であれば容易に知りえたといえるのにあえて公然と事実を摘示して本訴を提起した(被告Bの不法行為<2><3>の事実、被告Cの不法行為<2><3>の事実及び被告会社の不法行為の事実について)ものと推認せざるを得ない。
これは、被告らそれぞれに対する不法行為に該当するから、原告は、これによって被告らが被った名誉侵害による損害を賠償すべき責任を負うというべきである。
2 被告らそれぞれに対する適示された事実の内容や、被告Cについては、本件歓送迎会の原告の態度に対して明確な注意をせず(C君という原告の発言を笑いながら放置した。被告C本人)、前記のように原告の黙示の要請に引きずられるまま深夜自分の車で原告を自宅まで送った行為により、本件のような誤解を受ける原因を作った点において、被告C自身にも過失があること等を考慮し、右不法行為による慰藉料は、被告ら各自について、いずれも金二〇万円と認めるのが相当である。
3 したがって、被告らの反訴請求は、原告に対し、それぞれ金二〇万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成一二年四月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
三 よって、被告らの反訴請求は主文の限度で理由があるからいずれもこれを認容し、原告の本訴請求及び被告らのその余の反訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 潮見直之)